プロセスマイニング入門(1)プロセスマイニングとは?

Introduction to Process Mining (1) What is process mining?

プロセスマイニングは、大きな枠組みで考えるなら、ひとつは「業務分析(Business Analysis)」のための分析手法であると言うことができるでしょう。

業務分析という言葉自体は、現在の業務に関する様々な情報やデータを収集し、分析して、現状の仕事の進め方や組織などについて、仕組みや因果関係などを把握する活動を意味します。すなわち、業務に関する「現状把握」のための分析手法です。

プロセスマイニングは、業務分析が対象とする幅広い業務の側面のうち、「業務プロセス」を主たる分析対象としています。プロセスマイニングは元々は、「BPM(Business Process Management)」、すなわち、「ビジネスプロセスマネジメント」の枠組みにおいて、現状(as is)の業務プロセスを明らかにするための分析手法として誕生したからです。

さて、業務分析では一般に、業務に関わる情報やデータの収集は、主に、各種システム仕様書やマニュアルなどの業務関連書類の閲覧、現場担当者へのヒアリングやワークショップ、ストップウオッチ、ビデオなどの録音・録画機器などを利用した観察調査などを通じて行います。

一方、プロセスマイニングが分析するのは、「イベントログ」と呼ばれるデジタルデータです。イベントログは、業務遂行に利用される各種ITシステムに記録されているシステムの操作履歴データの総称です。

具体的には、資材調達に関わるシステムであれば、「調達要求(申請)」や、「調達申請の承認」、「見積の依頼」といった節目(マイルストーン)となる操作が、年月日時分などのタイムスタンプともに記録されています。

こうした記録は、システム操作における重要な「イベント」と呼ぶことができるので「イベントログ」と総称されているわけですが、プロセスマイニングでは、各種ITシステムから、イベントログを抽出して分析対象とします。

イベントログデータの抽出元となるのは、典型的には、SAP、ORACLEなどの「ERP(Enterprise Resource Planning)」や、CRMシステムです。こうしたシステムから抽出されるイベントログデータの容量は、時に数十~数百ギガとなることから、プロセスマイニングは「ビッグデータ分析」の一種であるとも言えます。(もちろん、プロセスマイニングが分析するイベントログの規模は、必ずしもビッグデータとは限りませんが、ビッグデータを扱う場合には、分析処理スピードなどテクニカルな問題が浮上します)

また、「プロセスマイニング」という言葉から連想できるように、「データマイニング」の一種であると考えるのもいいでしょう。ただし、およびデータマイニングが、あらゆるビッグデータを取り扱う汎用的な分析手法なのに対し、プロセスマイニングは、プロセスに焦点を絞っている点が異なります。

さて、プロセスマイニングが近年大きな注目を集めている最も大きな理由は、業務プロセスの把握、言い換えると「可視化(見える化)」のために、ヒアリングやワークショップといった断片的で主観的な情報ではなく、ITシステムから抽出されたイベントログを分析することにより、ファクトに基づく客観的な業務プロセスの可視化が行える点が挙げられます。

とりわけ、タイムスタンプを取り込むことから、あるプロセスの開始から終了までの総所要時間=スループットは何日何時間何分なのか、また、「調達要求」や「見積依頼」などの個々のアクティビティ(プロセスマイニングの分析においては、イベントは「アクティビティ」と呼びます)の処理時間は何日、何分なのか、アクティビティとアクティビティの間の移行時間=待ち時間は何日、何分なのか、といった業務効率を測定するための数値が計算できる点が、業務改善の手がかりを把握するために有効です。

従来の業務分析では、ヒアリングやワークショップを通じての「事情聴取」であり、業務の遂行手順は把握できるとしても、スループットやアクティビティ単位の処理時間や、アクティビティ間の待ち時間は押えられません。もしこうした時間を測定するとしたらストップウォッチを手にしての観察調査を行わざるを得ず、大変な手間とコストがかかります。しかも、調査件数はせいぜい数十件~数百件のサンプル調査になります。

プロセスマイニングでは、ITシステムから、数十万件~数百万件のイベントログをごっそり取り出すため、実質的な全数調査であり、極めて現実に近い現状把握が可能になるというわけです。

プロセスマイニングの分析手法は、まずはイベントログに基づく業務プロセスの可視化、より具体的に言えば、業務の流れをフローチャートとして描画することからスタートしていますが、研究が進展するにつれ様々な分析手法が開発され、より有益な知見を得ることができるようになっています。