Process Mining in 2021 and Beyond – Marlon Dumas

process mining in 2021 and beyond

当記事は、Tartu大学教授、Marlon Dumas氏の掲載許諾を得て日本語に翻訳したものです。日本語での理解がしやすいよう、多少補足・意訳している箇所があります。日本語版の文責はすべて松尾にあります。

Marlon Dumas氏は、BPM(Business Process Management)、Process Miningの研究者として世界的に著名です。オープンソースのプロセスマイニングツール、「Apromore(アプロモーレ)」を開発販売するApromore Pty Ltdの共同創業者でもあります。

また、世界の多数の大学において、BPMの教科書に採用されている『Fundamentals of Business Process Management』の共著者です。なお、『Fundamentals of Business Process Management』の日本語版が2021年中に刊行予定です。


Process Mining in 2021 and Beyond

– Marlon Dumas, Professor at University of Tartu | Co-founder at Apromore

過去10年間で、プロセスマイニングはビジネスプロセスを分析し、改善するための主流のアプローチとなりました。何百ものケーススタディが文書化され、また数千もの成功事例があり、プロセスマイニングは今やBPM(ビジネスプロセス管理)分野の不可欠な一部となっています。

同時に、プロセスマイニングはダイナミックで急速に進化している分野であり、今後もさらなる進化が期待されています。過去10年間は、可視化とダッシュボード(自動プロセス発見、パフォーマンスダッシュボード、アニメーション)に重点が置かれてきました。今後数年間のうちに、プロセスマイニングは、AIベースのプロセス最適化の領域へと進化していくでしょう。

私は、2021年には5つのトレンドが到来すると考えています。


トレンド1. ロボティック・プロセスマイニング


ロボティック・プロセス・マイニングは、デジタル・ワーカーが日常業務で行う反復的な定型作業を発見することに焦点を当てたプロセス・マイニングの新しいサブフィールドです。

定型業務の例としては、1つまたは複数のドキュメントからのデータをオンラインフォームに入力したり、電子メールの添付ファイルから内部情報システムにデータをコピーしたりすることが挙げられます。

ロボティックプロセスマイニングの出発点はUI(ユーザーインタラクション)ログ(日本では「PC操作ログ」とも言う)です。業務従事者と様々なアプリケーションや情報システムとの間のユーザーのインタラクション(操作)を記録したものです。

ロボティック・プロセス・マイニング・ツールは、複数の作業者が一定期間にわたって生成したUIログを分析し、頻繁に繰り返された手順の流れ(シーケンス)を発見します。これらは「デジタル作業ルーチン」と呼ばれています。各ルーチンは分析され、例えばRPA(Robotic Process Automation)のボットや、アプリケーションオーケストレーションスクリプトを介して自動化できるかどうかを判断します。

ロボット・プロセス・マイニングの究極の目的は、作業者を付加価値のないルーチンから解放し、顧客にとって重要なことに集中できるようにすることです。このアニメーションは、ロボットプロセスマイニングのゴールを簡潔に説明しています。


トレンド2.  Causal(因果)プロセスマイニング


因果プロセスマイニングは、ビジネスプロセスの実行ログから因果関係を発見し、それを定量的に把握しようとするプロセスマイニングの新たなサブフィールドです。

このような因果関係は、プロセス管理者がビジネスプロセスの改善機会を特定するのに役立つかもしれません。例えば、注文から現金化までのプロセス(O2C)のイベントログに対するプロセスマイニング分析結果から、顧客が東南アジア出身の場合、アクティビティAをワーカーXに割り当てるか、あるいは、アクティビティBの前にアクティビティAを実行すると(その逆ではなく)、この顧客が満足する確率が10%上がる、といった因果関係を発見することができます。

因果プロセスマイニングの目的は、特定のパフォーマンス指標の点で違いをもたらす介入*を特定することです。因果プロセスマイニングの詳細については、こちらの記事をお読みください。

*介入とは、プロセスのパフォーマンスを向上させるために行う具体的な対応策を意味している。因果関係を明確にすることにより、どんな介入が効果的であるかを特定することができる(松尾注)


トレンド3.  What-if(もしも)プロセスマイニング


What-if(もしも)プロセスマイニングは、イベントログを使用して、ビジネスプロセスに対する1つ以上の変更が与える影響を理解するための方法です。

従来のプロセスマイニング手法は、「現在のプロセスのボトルネックは何か」、「現在のムダの発生源はどこか」、「リワーク(繰り返し業務)のループはどこか」などの「現状」分析の質問に焦点を当てています。

対照的に、What-ifプロセスマイニングでは、次のような質問に対応します。「来月、顧客からの注文数が2倍になったらどうなるだろうか」、「Covidの影響で、従業員(の生産性)が10%が遅くなったらどうなるだろうか」、「あるタスクを90%自動化すると、待ち時間や処理費用がどれくらい削減されるだろうか」などです。

What-ifプロセスマイニングの要となるのは、データドリブンのプロセスシミュレーションです。すなわち、実行データに基づいて、再現度の高いプロセスシミュレーションモデルを自動的に発見する機能です。従来、プロセスシミュレーションは、確率分布や統計解析に関する高度な専門知識を必要とし、非常に時間のかかる作業でした。

データドリブンのシミュレーションは、シミュレーションモデルを自動的に発見、調整、検証することで、この作業を自動化し、観測されたプロセスを忠実に再現することを可能にします。ここ数年は、イベントログからBPMNのシミュレーションモデルを検出するオープンソースのツールセット「Simod」をはじめとするデータドリブンのシミュレーションツールが登場しています。2021年に向けて、この分野ではさらに多くの開発が行われることでしょう。


トレンド4.  処方的プロセスモニタリング


プロセスマイニングに使用するものと同じイベントログは、以下のようなプロセスの結果を予測するための「機械学習モデル」を訓練することにも使用できます。

・実行中のプロセスインスタンスは時間通りに完了するのか、それとも遅れるのか

・顧客は注文を受けて満足するのか、製品を返品するのか

・サプライヤーは請求書を時間通りに支払うのか、それとも多少の遅延があるのか

予測プロセスダッシュボードを生成するツールはいくつかありますが、その中にはNirdizatiのようなオープンソースのツールも含まれています。このような予測には、間違いなく多くの潜在的なビジネス価値があります。これらのツールを使うことで、運用管理者や業務従事者は問題の発生を確認し、予防措置を取ることが可能になります。

ただし、現実には、予測監視ダッシュボードだけではほとんど役に立ちません。確かに、未完了の注文の10%が、遅延や不良品、製品間違いなど、何らかの形で顧客からのクレームにつながる可能性はわかります。しかしながら、それは私たちがそれについて、「いつ何をすべきか」を教えてくれません。すなわち、そうした問題を防ぐために、ビジネス価値を最大化しつつ、リソースをどのように配分すべきなのか?予測に基づいていつ行動すべきか?を教えてくれるわけではないのです。

処方的プロセスモニタリングは、プロセスのパフォーマンス指標を最適化する施策(「介入」と呼ぶ)を推奨するために、予測的プロセスモデルを利用する新しい技術です。処方箋的プロセスモニタリングはコストを重視します。例えば、顧客への納品の迅速化や優先順位付けのコストと、特定の顧客への早期納品のメリット(他の納品を犠牲にする可能性もあります)とのトレードオフを最適化します。また、経営者による予防措置のコストと、全体的な利益との間のトレードオフを最適化します。

処方分析技術は、eコマースの分野で高いレベルの成熟度に達しています – Youtubeなどの大手メディアサイトで使用されているレコメンド(推奨)システムを考えてみてください。私は、この技術の一部が今後数年のうちに、処方的プロセスモニタリングのエンジンに組み込まれることを予想しています。


トレンド5.  自動化されたプロセス改善(AutoPI)


現在のプロセスマイニングの方法は、主に可視化とダッシュボードに基づいています。これらの方法では、プロセス内の問題点とその解決方法を特定するためには、アナリストや専門家が一連の可視化をナビゲートする必要があります。

ビジネスプロセスの可視化は、問題(ボトルネックや繰り返し業務など)があることを示していても、それに対処する方法を教えてくれるわけではありません。たとえば、リソース(担当者)の再配置や再教育をすべきか、いくつかのタスクやハンドオフ(部門間にわたる業務の受け渡し)を自動化すべきか、どのタスクを自動化すべきか、タスクの実行方法を変更すべきか、タスクを早めに実行すべきか、それともプロセスの後半に延期すべきか、また、プロセスの早い段階で顧客にリマインダーを送るべきか、などを教えてはくれません。

自動化されたプロセス改善(AutoPI)は、ビジネスプロセスをどのように変更すべきかについての幅広い選択肢を自動的に探索します。そして、欠陥率、コスト、手作業やスループットなどの1つ以上のプロセスパフォーマンス指標を最適化するための変更の組み合わせを発見するための発育途上の技術です。

AutoPIはまだ初期段階にありますが、今後1~2年でいくつかのプロトタイプやパイロットケースが登場し、2020年代半ばには成熟したツールが登場することを期待しています。


結 論

上記は、来年のプロセスマイニングの分野で期待されるワクワクする展開のほんの一部に過ぎません。もちろん、ICPM’2020カンファレンスのインダストリーパネルで議論されたように、今後数年間で取り組むであろう課題は他にもあります。

プライバシー保護のプロセスマイニング、クロスプロセス分析、イベントログの品質の自動検証と強化などの技術的な課題に取り組むために、いくつかの進歩があることは間違いありません。また、プロセスマイニングの戦略的位置づけやガバナンスの分野では、プロセスマイニングの成熟度モデルや、「全社的プロセスコントロールルーム」のような管理概念の出現など、問題が発生したときに、反応的にプロセスマイニングの調査を開始するのではなく、プロセスが全体的かつ先を見越して管理されるような、多くの発展が期待されています。

あなたがプロセスマイニングの世界に入れば、さらなる楽しみがあるでしょう。また、プロセスマイニングを実践に取り入れることを躊躇しているBPMの実務家にとっては、成熟した現時点でのプロセスマイニングと、今後の多くの新たな開発の両方を活用することができる今が、プロセスマイニングをBPMに統合する絶好のチャンスでしょう。


免責事項、承認およびライセンス


この作品は、タルトゥ大学の教授として書かれたものです。私の研究は、欧州研究評議会(PIXプロジェクト)とエストニア研究評議会から資金提供を受けています。また、オープンソースのプロセスマイニングソリューションを提供するApromoreの共同設立者でもあります。後者の所属に偏らないようにしています。

この記事はクリエイティブ・コモンズ 表示一般ライセンス CC-BY 2.0 の下でライセンスされています。

marlon dumas  Marlon Dumas – Professor at University of Tartu | Co-founder at Apromore

→ 原文はこちらからどうぞ

Robidium – Robotic Process Mining Tool – PC操作ログから定型業務を抽出し、RPAスクリプトを自動記述

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Robidium – Robotic Process Mining Tool

「Robidium」は2020年9月にリリースされたRobotc Process Mining Toolです。

「Robotic Process Mining(RPM)」をご存じの方はまだ少ないでしょう。RPMは、タスクマイニングツールの一種です。

タスクマイニングは、PC操作ログ、すなわち、ブラウザーやエクセルなどを利用したPC作業を詳細に収集・記録し、個人単位での「タスク手順」を見える化してくれるソリューション。一般に、タスクマイニングの基本機能は、PC操作ログの収集からタスク手順の見える化までです。

しかし、RPMでは、さらに定型業務(ルーティンワーク)を自動的に抽出し、さらにそれをRPAのスクリプトとして記述してくれます。ソフトウェアロボットによる定型業務自動化までをカバーしてくれるので「Robotic Process Mining」と呼んでいます。

さて、RPMツール、「Robidium」による、PC操作ログの収集からRPAスクリプトの記述までの全体像は下図の通りです。

Source: Robidium Presentation

Source: Robidium Presentation


PC操作ログは、英語では、「UI(User Interaction)ログ」と呼ぶのが一般的です。ユーザーが、情報システム(PC上のアプリケーション)を操作する作業を詳細に記録します。(上図には記載ありませんが、ログ収集の対象となるPCにUIログ収集用のセンサー「RPA_UILogger」のインストールが必要です)

蓄積したUIログに対して分析を行い、ログの中から定型業務と想定される手順を自動的に抽出してくれます。(分析する前に、UIログデータのクリーニングのため、重複した業務などのノイズをフィルタリングしてくれる機能が別途あります)

自動的に抽出された定型業務のうち、RPAによる業務自動化が適切と考えられるものについては、RPAスクリプト(現在はUiPathのみ)を自動記述します。

RPAスクリプトが作成されたら、RPA(UiPath)でスクリプトを展開し、対象となった定型業務の流れが間違いなく実行されるかを検証した上で実装する。

以上ご説明したように、Robidiumでは以上のような手順でPC操作ログの収集からRPAロボット実装までの手順を支援してくれるツールであり、まだまだ技術的な課題があるものの、今後の普及が期待されます。

Robidiumのクラウドバージョンは現在無料でトライアルできます。

http://robidium.cloud.ut.ee/

以下、Robiduimの主な流れを示します。


Robidiumのトップページ

トライアル用のサンプルデータはトップページからダウンロードです。


データ前処理済のUIログをアップロードします。

*前処理機能は未提供

robidium interface log upload

パラメターの設定を行い、「IDENTIFY ROUTINES」を押下して分析を実行します。

robidium interface identify routines

定型業務(Routine)が4つ抽出されました。

robidium routine selection

定型業務の詳細手順を確認します。

robiduim interface routine detailes

RPAスクリプトを作成したい定型業務を選択し、「GENERATE SCRIPT」を押下するとスクリプトが作成されますので新規ファイルとして保存します。

robidium interface generate script

UiPathから上記スクリプトを展開します。以下はスクリプトの中身です。

uipath script

この後は、RPAツールでの作業となります。