BMGで考えるプロセスマイニングビジネス

Process Mining Business from the View Point of Business Model Generation

今回は、ビジネスモデルジェネレーション(Business Model Generation、以下BMG)の枠組みで、プロセスマイニングビジネスの構成要素をご説明しましょう。ここで、プロセスマイニングビジネスとは、プロセスマイニングツール、および関連サービスを提供する事業のことです。

プロセスマイニングは、コロナ時代を乗り切るため、ビジネスプロセスの根本的改善、またDX推進の必要性が高まったことで、より一層注目が高まりつつあります。日本では、プロセスマイニングの普及が始まったばかりです。最近、コンサルティングファームやSIerを中心に、プロセスマイニングベンダーとパートナー契約を結び、プロセスマイニングビジネスに乗り出す企業が次々と登場しています。

さて、BGMは文字通り、「ビジネスモデル」を生み出すための枠組みであり、以下の9つの要素で構成されます。(BGM自体の詳細は関連書籍などでご確認ください)


1 CS (Customer Segments) - 顧客セグメント

2 CR (Customer Relationships) - 顧客との関係

3 CH (Channels) - チャネル(販売方法)

4 VP (Value Proposition) ー 価値提案

5 KA (Key Activities) - 主な活動

6 KR(Key Resources) - 主なリソース

7 KP (Key Partners) - キーパートナー

8 RS (Revenue Streams)  - 収入の流れ

9 CS (Cost Structure) - コスト構造

BMGをざっくり言うと、どんな顧客を対象として、どんな価値を提案するのか、そのためにどのようなリソースを用いてどんな活動をどんなパートナーと行っていくのか、その結果としてどのような売り上げ構造とコスト構造になるかを明確化するものです。

BMGに基づいて事業の在り方を明確化することで、戦略立案、体制づくり、予算確保など具体的な事業計画に落とし込んでいくことが可能となります。


では、BMGに基づいて、「プロセスマイニングビジネス」のビジネスモデルを展開してみましょう。下図は、ビジネスモデルキャンバスと呼ばれています。BMGの9つの構成要素を一覧できる形になっています。

Business Model Canvas - Process Mining

この図に示されている項目は、プロセスマイニングビジネスに取り組む企業の一般的なビジネスモデルと言えます。私自身も、このビジネスモデルに沿って事業展開を行っています。

それでは、各構成要素について簡単に説明しましょう。


1 CS (Customer Segments) - 顧客セグメント

プロセスマイニングを提案する主要なターゲットセグメントは、複雑なオペレーションを有する大手企業となります。その理由はまず、業務プロセスにおける様々な課題を抱えており、改善による収益増、コスト削減効果が高いことがひとつ。もうひとつは、プロセスマイニングツールを活用した業務プロセス改善の取り組みは相応の予算(数百万~数千万)が必要であるためです。

また、実際の導入検討に関わる主な部署は、業務プロセス改善やDX推進の主体となることの多い経営管理部門や、BPRチームです。企業によっては、CoE(Center of Excellence)と呼ばれる専任部署を設置していることがありますが、CoEもまたプロセスマイニングを活用する担当部署となることが多いでしょう。

プロセスマイニングツールはITとしての側面もあるため、情報システム部門が担当部署となる場合もあり、キーパーソンはCIO(Chief Information Officer)です。

2 CR (Customer Relationships) - 顧客との関係

プロセスマイニングは、業務プロセス改善やDX推進のための一連の方法論です。

ツールは短期のBPRプロジェクトなどで採用されることもありますが、処理中プロセスのモニタリングとしての活用も増加しており継続的な利用へと駒を進めていくべきでしょう。

また、プロセスマイニングツールを提供すれば終わりではなく、ツール操作方法のトレーニングに加えてデータ前処理、分析後の改善施策の立案実行など、ユーザー企業の社内では賄えないところについては、付帯的な支援を短期、または長期に行っていく必要があります。

3 CH (Channels) - チャネル(販売方法)

ここのチャネルは、顧客獲得のためのマーケティング施策を記載しています。

プロセスマイニングは高度で複雑な取り組みであり、その仕組みやメリット、導入手順をユーザー企業に理解してもらうのは簡単ではありません。したがって、コンテンツマーケティングを主体にSEO・SEMを実施すべきでしょう。

また、高額なサービスとなりますので問い合わせから成約までの期間はどうしても長くなります。したがって、イベント・セミナーも開催して顧客との関係性を深めつつ、メールマーケティングを通じた継続的な情報提供を行い、ホットリードを営業に渡すという流れになります。

4 VP (Value Proposition) ー 価値提案

プロセスマイニングを活用することの価値は、まずは業務プロセスを見える化できることでの課題発見があります。さらに、シミュレーション機能を使ってRPAによる自動化がもたらしてくれる改善効果などを事前に検証することが可能です。

そして、最終的な成果としては、プロセスが改善されたことによって総所要時間、すなわちスループットが短縮化するため受注プロセスでは顧客満足度の向上、また効率化によるコスト削減効果があります。

また、プロセスマイニングは、それ自体が目的ではなく、業務プロセス改善における「業務分析」の一環として行うものですが、従来の手法(現場担当者へのヒアリングやワークショップ等)よりも、期間短縮、コスト削減が見込めます。

5 KA (Key Activities) - 主な活動

プロセスマイニングビジネス推進するための主な活動としては、顧客獲得のためのマーケティング、直接営業、および協働するパートナーの支援に加えて、成約後のプロセスマイニング導入の支援、およびクライアント自身がツール操作やプロセスマイニングを活用したプロセス改善を行えるようになるためのスキルトランスファー、カスタマーサクセス(カスタマーサポート)を行う必要があります。

6 KR(Key Resources) - 主なリソース

上記主な活動を実行するために必要なリソース、すなわち人材としてはまず、プロセスマイニングに通暁したエキスパート(ツール操作にも習熟)、そして、分析対象となるイベントログを作成するためのデータ前処理(データクリーニング等)を行うデータサイエンティストが不可欠です。

ITシステムからイベントログ(多くの場合、トランザクションデータ)を抽出するためにはITエンジニアの助けが必要となります。

プロセスマイニング分析結果から明らかになったプロセス上の課題については、具体的な改善策の立案、実行のため、プロセス改善を支援するプロセスコンサルタントが活躍します。

7 KP (Key Partners) - キーパートナー

前述したように、プロセスマイニングは高度で複雑な取り組みであり、主なリソースとして様々なスキルを有した人材で推進チームを編成する必要があります。主なリソースをすべて社内で揃えられるのであれば問題ありませんが、基本的にはコンサルティングファーム、SIer、BPOプロバイダーなどとパートナー契約を結び、プロセスマイニングビジネス展開のエコシステム(生態系)を構築する必要があるでしょう。

8 RS (Revenue Streams)  - 収入の流れ

プロセスマイニングビジネスにおいては、ツールを提供するだけでなく、プロセス改善プロジェクトに則した様々な付帯サービスを提供できなければならないことから、ライセンスフィー以外の収益源も多岐に渡ります。

ライセンスフィーによる収益もさることながら、データ前処理やプロセスマイニング分析の実行、その後のプロセス改善支援などのコンサルティングサービスからの売上も大きくなります。

9 CS (Cost Structure) - コスト構造

プロセスマイニングビジネスに関わる直接コストとしては、ツールベンダーに対する各種支払い以外では、人件費とマーケティング費用が大半を占めます。


以上、プロセスマイニングビジネスのビジネスモデルをBMGの枠組みで解説しました。

プロセスマイニングビジネスはその先に、BPMS(Business Process Management System)やRPAの導入など広がりもあり、非常に有望な事業です。ぜひ貴社ならではのビジネスモデルを開発してみてください。