プロセスマイニング事例:ブラジル政府 – 立法プロセス分析

Process Mining Case: Normative Process in the Braziian Executive Branch

ブラジル連邦共和国政府では、文字通り、官僚的な政府の業務プロセスについてプロセスマイニング分析を行い、その改善に取り組んでいます。

プロセスマイニング分析の対象となったのは、具体的には、大統領直轄の執行機関による立法プロセスです。ブラジルも多くの国と同様、三権分立制を採用しており、各種の法を制定する立法機関(Legislative Branch)、すなわち議会、および、法に基づく執行をつかさどる執行機関(Executive Branch)、そして法に基づく裁判を行う審判機関(Judicial Branch)、すなわち法廷の3つの機関で構成されています。

ただし、法律の起案は議会だけでなく、大統領直轄の執行組織である大統領府(英語ではCivil Hose of the Presidency fo the Republic)が、各省庁との連携のもと、憲法改正や、暫定法、大統領令などを起案することが可能です。この大統領府による立法プロセスに関わるイベントログに対してプロセスマイニングが実行されたというわけです。

プロセスマイニングが行われた目的は、重複する法制度が立案されてしまっていたり、立法にいたる手順に様々なボトルネックやリワーク(手戻り、繰り返し)が発生していたりする現状を明らかにし、より優れた立法プロセスへと改善する=近代化する(modernize)ことでした。

さて、大統領府における立法プロセスは、大きくは以下の4段階です。


1 法案の着想(Conception of the act)

2 ステークホルダーとの議論(Discussion of the act)

3 法案の取りまとめ(Consolidation of the act)

4 法案への署名(Signature of the act)


法案の着想は、基本的には各省庁担当者が行います。各担当領域について法案を起案するにあたって現状分析・診断や代替案の検討、費用など、社会にとってどのような現実的な結果がもたらされるかが検討されます。

ステークホルダーとの議論は、起案された法案に関わる様々なステークホルダー(利害関係者)のすり合わせを行う段階です。ステークホルダーには、法案の内容によって、市民、企業、議員、外国人などが含まれます。

法案の取りまとめは、関係各所、ステークホルダーとの議論を踏まえ、なんらかの合意が得られた内容にまとめあげる段階です。そして、まとめられた法案はまず、公式書類を収録するシステム(Sidof)に投入されます。その後、大統領府においては、電子情報システム(Sei!)上で法案が処理され、最終化されて大統領の署名を待つことになります。

法案への署名は、大統領の署名、および閣僚による投票が行われる段階です。


以上の立法プロセスは現実には非常に複雑なものであり、利用される情報システム、アプリケーションも複数存在します。例外的な処理も多く発生せざるを得ません。このため、プロセスマイニング分析を行うに当たっては、法案の着想段階やステークホルダーとの議論段階において、非公式にやりとりされたEメール受送信データは対象外とされました。

そして、一般的な立法プロセスを導出するために、次の2つの分析が可能になるようデータ前処理が行われています。

・省庁間の情報のやりとり、および大統領府へ提出される標準手順(Sidofシステム登録まで)

・大統領府内での内部処理(Sei!システムでの処理)

公式文書管理システムであるSidofに登録されている立法案件は合計9,906件(2010年10月1日~2018年3月12日)でした。うち2,964件の法令や暫定法が公布されていました。


この2964件の立法プロセスのプロセスマイニング分析結果からは様々なことが明らかになりました。まず、平均的な所要期間は、30週であること。また、プロセスのバリエーションは2,739に上っており、一番多いパターンで21案件しかなかったことです。要するに、標準的な手順は実質的に存在していないということです。

また、大統領府内での法案処理プロセスに用いられるシステム「Sei!」のデータ分析からは、ボトルネックの存在が示唆され、またそれに関わる主要なプレーヤーは、法令部門(Leagal Unit)、および政府方策部門(Government Policies Unit)の2部門であることも判明しました。


上記のような各種分析を踏まえ、次のような改善施策が講じられています。

・Sei!システムとSidofシステムの両方の機能を備え、かつ問題点を解消した新たなシステムのプロトタイプを作成し、立法プロセスの標準化を促進する

・マイクロソフトのSharepointやTeamsなどのコラボレーションツールを導入して、立案プロセスに関与する関係者の協働作業を円滑に行えるようにする

・内部の業務処理手順を再設計する


上記事例は、Case Study: Government Proess Mining in the Brazilian Executive Branch ( Fluxicon)のポイントを和訳したものです。詳細は同記事をお読みください。

プロセスマイニング事例:Siemens – 受注プロセス改善のためのKPI「デジタルフィット率」

Process Mining Case: O2C – Digital Fit Rate

Siemensでは、O2C(Order to Cash)、すなわち受注から入金までのプロセスの改善の取り組みにプロセスマイニングを活用し、「デジタルフィット率」という同社独自のKPIを開発し、グローバル規模での成果を積み重ねています。

従業員数38万人以上、総売上970億ドル(全社、2019年)のSiemensでは、当然ながらこれまでも様々なプロセス改善の取り組みが行われてきています。たとえば、ワークショップを開催して業務プロセスをマッピングするなどの方法が採用されてきています。

ただ、プロセス改善の取り組みは基本的に、一部の事業単位などを対象とするプロジェクトベースであり、マッピングなどの現状把握のため、現場を巻き込んみつつ多大な労力が必要な割に、改善成果が見えずらく、また他の部署や他国オフィスと改善の取り組み内容を共有したり、拡張したりすることが困難でした。

このような状況下、2016年、同社は「O2C」のコスト低減を目的としたプログラム、「Order Management for Tomorrow(OM4T)」を開始。コスト削減のために、主に販売業務を支えるバックオフィス業務の効率化や自動化を実現することを目指したのです。

同社の事業部門のひとつ、Digital Industriesで同プログラムを牽引したのは、Gia-Thi Ngyen氏 ( Head of Operational Excellence)と、彼がメンバーとして声をかけた、Franziska Bierack氏(Project Manager)と、Ines Korner氏(Project Manager)の3人のチームです。

FranZiskaとInesはどちらも、顧客からの注文を受け付ける部門に所属しており、エクセルでの作業など、バックオフィス業務における手作業(マニュアルアクティビティ)の多さに辟易していました。

さて、彼らは1年ほどの間に30以上の国の同事業部オフィスを訪問し、新たなプログラムの展開、浸透に従事しましたが、その際、重要なKPIとしてFranziskaが開発したのがデジタルフィット率(Digital fit rate)です。

デジタルフィット率は、以下に示したように、マニュアルアクティビティ数を受注アイテム数で割るだけのシンプルな数値です。

デジタルフィット率=マニュアルアクティビティ数÷受注アイテム数

デジタルフィット率は、マニュアルアクティビティ数が、受注アイテム数よりも多ければ1以上となり、逆に少なければ1未満となります。したがって、デジタルフィット率が1を下回って少なければ少ない数値であるほど、手作業が少なく効率的でコスト低減につながっていることになります。

デジタルフィット率が最も重要で”使える”指標としてSiemensで受け入れられたのは、シンプルでわかりやすいだけでなく、サブ的な指標である「自動化率」や「リワーク(繰り返し)率」も包含する指標だったことがあります。

Source: The Digital Fit Rate explained in detail

というのも、業務プロセスにおける自動化率は高ければ高いほど、言うまでもなくマニュアルアクテイビティは少ないことを意味します。また、リワーク率は、変更やミス発生による繰り返し、やり直しの割合を示していますが、これが少なければ結果的にマニュアルアクティビティ数が減少します。

こうして、デジタルフィット率をコア指標として、各種ダッシュボードで地域別、資材別、顧客別など様々な切り口での分析ダッシュボードを全世界で共有し、数値の改善度合いを見える化することで、各国とも積極的にプロセス改善に取り組むモチベーションも向上しました。

当プログラム展開の結果、自動化率は24%増加、手作業の手戻りは11%減少、実質的に1千万件以上の手作業が削減されたことになります。

参考資料等

『プロセスマイニングの衝撃』ラース・ラインケマイヤー編著、百瀬公朗訳、インプレス社

Siemens: The Power of Process Improvement on a Global Scale

The Digital Fit Rate explained in detail

プロセスマイニング事例:Siemens Healthineers – マシンログ(CTスキャナー)分析

ct scanner

Process Mining Case: Siemens Healthineers – CT Scanner data analysis

Siemens Healthineer(以下、SHS)は従業員数3万人超、医療機器のCTスキャナー(コンピュータ断層撮影)のグローバルマーケットリーダーです。CTスキャナーのグローバル市場シェアは33%以上、年率10%の成長率を続けています。

現在世界で29,000台のCTが稼働しています。CTを動かすためのソフトウェアは3つのプラットフォーム上で開発されており、合計31システム、バリエーションは74あるため、設定条件は最大3000パターンに上っています。

さて、稼働中の29,000台のCTのうち、最大14,000台については日々の稼働データがXMLファイル形式で送信されており、蓄積されるデータ量は50G/日です。このビッグデータはBIの「Qlik」で集計され、様々な文政ダッシュボードが作成されて社内で利用されています。

同社が、CTスキャナーのイベントログデータに対するプロセスマイニングに取り組んだ背景には、BIによって、CTがどう(WHAT)稼働しているかのスナップショットは十分分析できているが、どのように(HOW)稼働しているかを把握したいという動機がありました。

CTスキャナーにおける作業プロセスは大きくは以下の流れです。

1 患者を登録(Register Patient)

2 プロトコールのアップロード(Load Protocol)

3 患者位置確定(Confirm Position)

4 走査位相のアップロードと読み込み(Load Topo)

5 走査開始(Scan)

6 再構成(Reconstruct)

7 終了(Close)

上記のログデータはマシンログとして記録されており、同社ではSQLサーバに蓄積しています。このマシンログを抽出、整備してプロセスマイニング分析を実行しています。

SHSで採用しているプロセスマイニングツールは、「MEHRWERK Process Mining(以下、MPM)」です。同社がMPMを採用した最大の理由は、MPMはQlikのプラグインとして提供されており、既に社内で活用されているQlikと一体的に利用することが可能だったからとのこと。

プロセスマイニングを通じて、CTスキャナーが現場でどのように(HOW)利用されているかが明らかとなり、様々な改善ポイントも見えてきました。

例えば、走査時間が徐々に遅くなってきており、CTスキャナーの一人の患者当たりのスループット(総利用時間)が長くなる傾向がデータから明確になりました。これは、アルゴリズムのパラメターの設定方法の見直しや、ソフトウェアにおけるなんらかの改善が必要なことを示唆します。

また、CTスキャナーの操作手順のバリエーションは、87,000以上に上ることがわかり、手順の標準化を推進すべきであることも判明しました。プロセスマイニングではこうしたバリエーションを詳細に検証可能であり、標準化を行う助けとなります。

また、地域(例えば、中国と米国)間の操作方法の比較分析なども行うことで、同社CT製品の改善に取り組んでいます。

プロセスマイニング事例:Suncorp – 保険金請求処理プロセスの劇的改善

insurance claim form

Process Mining Case: Suncorp – Huge improvement in Claim handling process

サンコープ(Suncorp)はブリスベーンに本社を置く、オーストラリア最大の保険・金融事業グループです。従業員数は16,000人以上、顧客数は900万人に上ります。

サンコープ社がプロセスマイニングに取り組んだ時期も早く、2012年頃からです。当時は商用ツールは普及していません。そこで同社では、オープンソースのプロセスマイニングツール、「ProM」を利用し、クィーンズランド工科大学の研究者の支援を受けて保険業務のプロセスマイニング分析に取り組んだのです。

保険業務のプロセスは、E2E(End-to-End)では、保険商品の開発から販売、サービス、そして保険金請求処理までが含まれ、業務要素は500に上ります。また、保険商品の種類としても、家財保険、自動車保険をはじめ30種類を超えます。結果として、プロセスのバリエーションとしては3000以上と非常に複雑なものです。

こうした複雑なプロセスを運営するサンコープ社では以下のような課題を抱えていました。

・ガバナンス不在:現場担当者のトレーニングが不十分、かつ手順が確立されておらず、責任者が不明確

・トップの支援不足:トップの理解が弱く、現場の改善のために必要な投資や支援が十分に得られない

・計画・ツールの欠如:プロセス最適化のための計画やツールが不足

上記のような課題を解決するため、同社ではプロセスマイニングを通じて現状プロセスを可視化し、問題点について社内の理解を得やすくしたうえで、必要な改善施策を講じることに取り組みました。

とりわけ劇的な改善成果を上げたのが、保険金の請求処理プロセスです。これは、例えば自動車事故を起こした場合に、契約者が行った保険金請求案件について、内容を審査し、事故に関連した費用をカバーする保険金を支払うまでの一連の手順です。

まず、保険金請求処理プロセスのスループット(総所要時間)の分布を分析。横軸に保険金支払額の大きさ、縦軸にスループットを取った2軸に各処理案件をプロットした下図を見ると問題が明らかです。

Source: Understanding Proess Behaviours in a Large Insurance Company in Australia: A Case Study, Conference Paper – June 2013

右上の「Complex Slow」は、支払保険金額が大きく審査に時間がかかることからスループットが長くなっていいる案件です。ある程度時間が長くなるのは許容しなければならないでしょう。

右下は「Complex Quick」です。支払保険金額は大きいもののスループットが短くなっています。安易な審査になっていなければ、支払保険金額が大きくてもすばやく契約者に振り込めるのは顧客満足度を向上させるでしょう。

左下は、「Simple Quick」です。支払保険金額は少なく、スループットも短い。問題なしです。

左上の「Simple Slow」が問題プロセスです。支払保険金額が少ないのにスループットが長くなってしまっている。保険金額の大きさと比較してよけいな手間、コストを要してしまっているという内部的な問題であり、かつ少額の保険金請求なのになかなか保険金が支払われない、という点においては顧客の満足度を低下させてしまうことにつながっています。

この問題の解決の基本方針としては、少額保険金請求案件はできるかぎりスループットを短くする、すなわち、プロット図で見ると、左上にある案件を左下に移動させるということです。

そこで、左上の「Simple Slow」のプロセスと左下の「Simple Quick」のプロセスの流れをフローチャートとして描き比較分析を行いました。

Source: Understanding Proess Behaviours in a Large Insurance Company in Australia: A Case Study, Conference Paper – June 2013

このように2つを並べてみると、例えば、「Simple Slow」(右)の場合、フローチャートの左側にある「Follow Up Requested」において「繰り返し(リワーク)」が大量に発生していることがわかります。

上記以外にも、様々な切り口でプロセスマイニング分析を行い、保険金請求処理プロセスのスループットを長くしているボトルネックを発見し、ボトルネックを解消するための改善施策を計画、実行に移しました。

改善効果は劇的なものでした。従来、保険金請求を受け取ってから保険金支払までのスループットはおよそ30日~60日でしたが、改善後はわずか平均5日へと大幅に短縮。顧客満足度の向上と業務効率化によるコストダウンを実現しています。

プロセスマイニング事例:ABB – 処方的分析の取り組み

supply chain management

Process Mining Case: ABB – Prescriptive Anaytics

ABB(Asea Brown Boveri、アセア・ブラウン・ボベリ)はスイスに本社があり、電力関連、充電、重工業を主事業とするエンジニアリング企業です。従業員数は約11万人、世界100カ国以上に事業展展開しています。

ABBは、プロセスマイニングの早期採用企業のひとつです。2013年に、Celonisによる初めてのPoC(Proof of Concept)をドイツにあるグループ企業にて実施。2018年には、グローバル規模での全社導入を開始しています。

2019年以降は、サプライチェーン全体をデジタル化(デジタルサプライチェーン)して、E2E(End to End)で可視化、さらに、プロセスに潜む問題点の発見だけでなく、どのように改善すべきかを提示してくれる処方的分析(Prescriptive Analysis)のパイロットプログラムを走らせています。

ABBのデジタルサプライチェーンにおけるE2Eとは、原材料等の購買から製造、顧客への販売、納品までをカバーするものです。したがって、このサプライチェーンに関わるシステムはERPだけでも60以上、その他のアプリケーション(SalesForceやオフィスソフトなども含む)は全世界で6000以上という巨大で複雑なものです。

そこで、ABBでは、プロセスマイニングツールをプロセス分析としてだけでなく、多数のシステム、アプリケーションをイベントログデータとして相互接続するためのツールとして活用しています。

こうしてサプライチェーン全体をデータとして統合し、プロセスマイニング分析を行うことで、Gartnerが説く、DTO(Digital Twin of an Organization)の実現を目指し、以下の3つの領域に取り組んでいます。

1 モニタリング:継続的改善

2 モデリング:as isとの適合性、プロセス最適化

3 エグゼキューション:プロセス自動化、リアルタイムアラート(問題指摘、改善提案)


デジタルサプライチェーンに含まれる主なプロセスは以下の通りです。

  • マスターデータ管理
  • 販売プロセス
  • エンジニアリング
  • プロジェクト実行管理
  • サプライチェーン(購買プロセス)
  • 製造
  • 物流
  • 設置・試運転
  • 経理・財務処理

ABBでは上記のプロセスで採用されている様々なシステム(SAP, SFDC, SNOW, MES, PLM等)から抽出したイベントログデータをデータレイク化し、各種IDで接続することでE2Eプロセスのプロセスマイニングに取り組んでおり、主なKPIとしては以下のようなものを設定してダッシュボードを作成しています。

  • スループット
  • リードタイム
  • 在庫回転率
  • コスト
  • 品質

さらに、ABBでは、担当部署ごとの主要目標を設定し、プロセスの問題とその根本原因の発見を踏まえた具体的な改善アクション自動的に作成して、担当者にアラートを送信する手順を確立するパイロットプログラムを走らせています。これが「処方的分析」であり、プロセスマイニングで最も最先端の取り組みだと言えるでしょう。

プロセスマイニング事例: FREO

loan image

Concise report of process mining case: FREO – Process Mining Camp 2020

プロセスマイニングツールとして最も初期から提供されているDiscoの開発・販売元、Fluxicon社は毎年、「プロセスマイニングキャンプ」と題したイベントを開催しています。

2020年のプロセスマイニングキャンプは、オンラインにて2020年6月15日(月)~24日(水)で開催されました。土日を除き1日1セッション、合計8セッションが行われ、様々な企業・組織でのプロセスマイニングの活用事例が報告されました。

PMI(Process Mining Initiative)では、一部のセッションについて重要なポイントに絞った簡潔なレポートを提供いたします。なお、セッション動画は後日、Fluxicon社より一般公開されます。


FREO – 日々の業務改善にプロセスマイニングを活用

FREOはオランダで消費者向けローンを提供しています。ユーザーの主なローン使途は、自動車購入、住宅リフォーム、既存ローンの借り換えなどです。ローンの申し込みはWeb、または電話で受け付け。ローンの申込件数は年間10万件以上、かかってくる電話は同2万件以上に上ります。

同社では、日々の業務管理(Operational Management)のため、BIツールのPower BIなどとともにプロセスマイニングツールを活用して、プロセス上の問題点を発見、継続的な改善を行っています。

さて、FREOの日々の業務、すなわちローン申し込みの受け付けから契約までは以下の段階で構成されています。このプロセスに従事するFREOのスタッフは60人以上です。


1 ローンの申し込み(Loan Application) – ユーザー

 ユーザー(消費者)から、Webまたは電話でローンの申し込みを受け付けます。

2 ローンの提案(Loan Offer) – 顧客接点チーム

 顧客接点チームが、申し込み内容に対して適切なローン商品を提案します。

3 書類確認(Loan Validation) – 顧客確認チーム

 顧客確認チームが、ローン申し込み者について必要な書類が揃っているかを確認します。

4 ローン審査(Credit Approval)- ローン審査チーム

 ローン審査チームが申込者の書類を審査し、ローンを提供するかどうかを決定します。

5 ローン契約(Contract)

審査がOKだった場合、ユーザーとローン契約を締結し、融資金額を銀行口座に振り込みます。


FREOでは、上記の日常業務に関してKPI(Key Performance Indicator)を設定しています。KPIは、大きくは以下の5つのカテゴリーです。


1 品質(Quality)

 工程が一回で問題なく終了するか(First Time Right)

2 迅速性(Timeliness)

 製品・サービスの提供スピードは速いか

3 受け入れ能力と生産性(Capacity and Productivity)

 効率的にメンバーの対応キャパが使われているか

4 費用と利益(Cost and Benefits)

 運用コスト、利益に与える影響度合い

5 顧客・従業員満足(Satisfaction)

 製品・サービスの提供プロセスに対する顧客、および構成メンバーの満足度


FREOでは、KPIの最初の3つ、すなわち「品質」、「迅速性」、「対応能力と生産性」が高まれば、結果的に「費用と利益」、および「顧客・従業員満足」は高まる関係にあると考え、最初の3つの改善に取り組んでいます。

そして、具体的なKPIの指標としては、マネジメントレベル、チームレベル、および日常業務レベルでそれぞれ以下のようなものがあります。


マネジメントレベル

 ・ローン申し込みから契約までの平均スループット(総所要時間)

チームレベル

 ・申し込みから初回コンタクトまでの平均所要時間(顧客接点チーム)

 ・書類受領から書類確認終了までの平均所要時間(顧客確認チーム)

 ・確認後書類受領からローン審査終了までの平均所要時間(ローン審査チーム)

日常業務レベル

 ・申込件数(全チーム)

 ・24時間で連絡した申込件数(顧客接点チーム)

 ・24時間で書類確認した申込件数(顧客確認チーム)

 ・24時間で審査した申込件数(ローン審査チーム)


同社ではこれらKIPをBIのダッシュボードで日々モニタリングすると同時に、問題点を発見するための深堀り分析にプロセスマイニングを活用しています。

プロセスマイニングでは、日々のKPIをモニタリングしているだけではわからない、実際の業務の流れが可視化できます。FREOのローン申し込みから契約までの業務プロセスにも様々な問題が発見できました。

たとえば、ユーザーが申し込んだ後、顧客接点チームが連絡してもユーザーから返信がない、あるいは商品を提案した後、書類が揃わない、などの理由で、それぞれ適切なフォロー施策を展開するため、様々な業務手順の分岐が発生しています。また、ローン受け付け、書類確認、ローン審査のそれぞれの段階に移る箇所で処理待ち、すなわちボトルネックが発生していることが定量的に把握できます。同社では、手順の組み換えやリソース(担当者)のアサインを柔軟に見直すなどして、問題の解消に当たっています。

同社では、プロセスマイニングを単なる問題発見ツールとしてだけでなく、実際の業務プロセスが可視化できることで、関係するメンバーが「すごい(Sense of Excitement)」と思ってもらうこと、また、非効率性やボトルネックが一目瞭然となることから「すぐに改善しなければ(Sense of Urgency)」という気持ちを喚起できる仕掛け、すなわちプロセス改善を着手させ(Initiator)促進する(Katalysator)ことのできる有益なアプローチとして活用しています。

Seventh Day of Camp – Freo – Process Mining Camp 2020

プロセスマイニング事例: AIG

simulation image

Concise report of process mining case: AIG – Process Mining Camp 2020

プロセスマイニングツールとして最も初期から提供されているDiscoの開発・販売元、Fluxicon社は毎年、「プロセスマイニングキャンプ」と題したイベントを開催しています。

2020年のプロセスマイニングキャンプは、オンラインにて2020年6月15日(月)~24日(水)で開催されました。土日を除き1日1セッション、合計8セッションが行われ、様々な企業・組織でのプロセスマイニングの活用事例が報告されました。

PMI(Process Mining Initiative)では、一部のセッションについて重要なポイントに絞った簡潔なレポートを提供いたします。なお、セッション動画は後日、Fluxicon社より一般公開されます。


AIG (USA) – Process Wind Tunnel(プロセス風洞)で確実な改善効果を

グローバルに展開する保険会社、AIGでは様々な業務プロセス改善に取り組んでいます。特に、米国AIGの”Data-Driven Process Optimization”と呼ばれる部署では、プロセスマイニング、シミュレーション、BIを組み合わせることで改善成果を積み重ねています。

Data-Driven Process Optimization部署では、プロセス改善の一連の手順を「プロセス風洞(Process Wind Tunnel)」と呼んでいます。自動車や航空機、建築物などの設計においては、風洞に模型を置いて風の流れ等を測定する「風洞実験」を行います。同様に、プロセスの改善にあたって、シミュレーションによる改善成果の予測を行った上で改善施策に展開するという手順を踏んでいるのです。

プロセス風洞は以下の4つの段階で構成されます。

1 データ収集(Data Collection)

ITシステムからのイベントログ抽出に加えて、ビジネスルール、およびリソース(担当者などの属性データを統合します。

2 現状分析(Current State Analysis)

BIツール、プロセスマイニングツールを用いて現状プロセスを可視化し、様々な視点で分析を深めます。

3 未来状態設計(Future Sate Design)

現状を再現するシミュレーションモデルを作成し、さらに、リソース配分の変更などプロセスを最適化するようにモデルのパラメターを変更し、改善成果を試算します。

4 実行

前項のシミュレーションを踏まえ、パイロットプロジェクトを走らせたり、システム改修、新ツールの導入などの改善施策を実行し、改善状況をモニタリングします。

今回紹介された取り組み例はサービス業務です。これは、お客様から届く、月間6万件に上る様々な書類を処理する業務です。書類は、USPSの通常便であったり、翌日配達便であったり、FAX、あるいはeメールと様々な形態があります。

紙の場合には開封して中身をチェックし、スキャンするといった手作業があります。こうした手作業については動作調査(motion study)を行って平均処理時間など、シミュレーションに必要なパラメターとなる情報を収集しています。

データ化された後の処理は、BIツールで曜日別の書類到着数などの統計的分析、およびプロセスマイニング分析を行って現行プロセスモデルを可視化し、プロセス上の問題点を抽出するとともに、データ分析結果から得られた数値はシミュレーションのパラメターとして用いています。

サービス業務の場合、シミュレーションの結果、50%ものスループット(総所要時間)の改善が見込めることがわかり、実際に改善施策を講じたところ、シミュレーションの予測に等しい結果が得られたとのことでした。

Third Day of Camp – AIG – Process Mining Camp 2020

プロセスマイニング事例: Lufthansa Technik

airline engine maintenance

Concise report of process mining case: Lufthansa Technik – Process Mining Camp 2020

プロセスマイニングツールとして最も初期から提供されているDiscoの開発・販売元、Fluxicon社は毎年、「プロセスマイニングキャンプ」と題したイベントを開催しています。

2020年のプロセスマイニングキャンプは、オンラインにて2020年6月15日(月)~24日(水)で開催されました。土日を除き1日1セッション、合計8セッションが行われ、様々な企業・組織でのプロセスマイニングの活用事例が報告されました。

PMI(Process Mining Initiative)では、一部のセッションについて重要なポイントに絞った簡潔なレポートを提供いたします。なお、セッション動画は後日、Fluxicon社より一般公開されます。


Lufthansa Technik – 部品補修プロセスの改善に活用

Lufthansa Technikは、航空機の整備、補修、オーバホールのサービスを提供しています。同社にとって最も重要な課題は、クライアント(航空会社)から預かった航空機の整備や補修を可能な限り速やかに行うことです。というのも、整備、補修に係る時間がみじかいほど、航空機の運航時間が増え、クライアントの収益向上につながるからです。したがって、Lufthansa Technikにおけるプロセス改善においては、「スピードアップ」が基本戦略です。

さて、プロセスマイニングに取り組む同社が今回、事例として取り上げたのは部品補修(Parts Repair)のプロセスです。プロセスマイニング分析によって発見された業務遂行上の問題点の改善には、リーンマネジメントの考え方がベースにありますが、さらにボトルネックに関しては制約理論(Theory of Constraints)を適用した点が特徴的です。

部品補修プロセスはほとんどがERP上で遂行されていることから、クオリティ、信頼性の高い分析対象データを抽出することが可能でした。一部、システム外で行われている業務については、担当者が開始時間、終了時間を手入力で記録することでイベントログデータが作成されています。

プロセスマイニング分析結果から、部品補修プロセスの総所要時間(ターンアラウンドタイム、またはスループットと呼ぶ)を長くしている大きなボトルネックは3カ所ありました。すなわち、「検査(Inspection)」、「提案と承認(Proposal and approval)」、「修繕と認証(Repair and certification)」です。

各工程では、大きなユニットの60-80%が処理待ちとなっており、このため6日~12日ほど想定よりも時間が掛かっていました。どれも解決すべきボトルネックではありましたが、どの工程から着手するか、優先順位をつけるために同社では「制約理論(Theory of Constraints)」を適用しました。制約理論は、プロセス改善を目的としてボトルネックの解消に取り組むためのアプローチです。そして、制約理論に基づき、「提案と承認(Proposal and approval)」からボトルネック解消のための施策を開始したのです。

また、プロセスマイニング分析後の改善の取り組みにおいては、「スピードアップ」の基本戦略を踏まえて、ワークショップを開催、「価値提供プロセスマップ(Value Stream Map)」を作成してプロセス課題を抽出、Wiki、Jira、Backlogなどのツールを用いてプロセス改善プロジェクトを推進しました。

プロセスマイニング分析後の改善の取り組みにおいて、スピードアップの戦略方針を踏まえて、ワークショップを開催、プロセスの流れを見直しつつ課題を抽出、Wiki、Jira、Backlogなどのツールを用いてプロセス改善プロジェクトを推進しました。

First Day of Camp – Lufthansa Technik – Process Mining Camp 2020